シンガポールのビロードカワウソ生息地訪問レポート

東南アジアに位置するシンガポールは、近年稀に見る都市型カワウソ保全の成功場所として有名であり、コツメカワウソ ( Aonyx cinereus ) およびビロードカワウソ ( Lutrogale perspicillata ) の分布地である。

今回は現地のIUCN OSGのメンバーと連絡をとり、訪問日に一番カワウソ観察がしやすいJiak Kim Bridge(図1)にて朝8時に集合した。上述の通りシンガポールはカワウソが2種生息するが、主に見られるのはビロードカワウソであり当日もビロードカワウソの群れが観察された(図2)。

図2. Jiak Kim Bridgeにて観察されたビロードカワウソ

Jiak Kim Bridgeは住宅地の中を流れる川にかけられた橋で川は人工護岸処理がされているが、カワウソは階段を巧みに利用して川と陸地を行き来していた。またゴミ収集の船が頻繁に往来してゴミを拾い集めており、水質は悪くない状態であった。

そして特筆すべきはこれらのカワウソが非常に人に慣れている点で、今回も日曜日の朝ということもあり周りには非常に多くの住民が行き来して騒がしい状態であったが、カワウソは全く気にすることなく遊泳や捕食を行っていた(図3, 4)。

図3. 通行人が近くで見ていても全く気にする様子のないカワウソ
図4. 生後約4ヶ月の幼獣

このように非常に発達した都会において人間とカワウソの理想的な共存関係を確立しているようにも思えるシンガポールであるが、ここ最近では個体数がかなり増加し飽和状態に近くなっているとの見方もある。そしてカワウソが道端にする糞便が非常に臭いとの苦情もあり、全ての住民がカワウソに理解を示しているわけではないようだ。このようにシンガポールにおいてもいくつかの課題があることが浮き彫りとなったが、世界的に都市化が避けられない状況において人とカワウソの共存の道しるべを示す場所に違いないと感じた。

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この記事を書いた人

WWFジャパン野生生物グループ、IUCN(国際自然保護連合)カワウソ専門家グループメンバー、日本アジアカワウソ保全協会顧問。 ソウル大学修士課程修了後、東京都恩賜上野動物園勤務を経て、現職。 現在は海外勤務の傍ら論文博士テーマとして東京農工大学・ソウル大学と共同で東アジアのユーラシアカワウソ腸内細菌研究を行うほか、深刻さを増すコツメカワウソのペット問題についても取り組む。

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