第16回国際カワウソ会議報告―カワウソは世界で14種にー
松浦翔大(東農大3年)・和久大介・佐々木浩
第16回国際カワウソ会議(the 16th International Otter Congress:IOC16)はIUCNのカワウソ専門家グループ(OSG)が主催し、ペルーのリマ郊外にあるシエンティフィカ・デル・スール大学にて、2025年2月24日から28日の5日間に渡って開催された。IOCは4年に一度開催され、世界中から経験豊富な研究者と新進気鋭の研究者を集め、知識の更新とカワウソのより適切な保全と管理の推進を目的としている。
初日の口頭発表は「成功事例」のセッションで始まり、チリにおけるチリカワウソとミナミウミカワウソの保全活動の概要と2種の個体数の回復と保全のための計画、研究の成果報告や、遺伝学の進歩による遺伝学的手法のカワウソ保全における重要性についての他、中央アメリカ、およびアンデス山脈以西の南アメリカに分布するオナガカワウソ(Lontra longicaudis)の亜種とされていたものがアンデス山脈を境に遺伝的な差異などが明らかであるため新たな種Mesoamerican otter(中米カワウソ?、Lontra annectens)とすることを提案した発表などがあり、盛んに議論された(この提案はこの後のOSGの会議で承認されてカワウソは世界で14種となった)。我々日本勢からも和久理事(東農大)による絶滅したニホンカワウソの遺伝学的研究の成果や2017年に対馬で発見されたカワウソについての報告がされた。午後の「保全計画と行動」のセッションではオオカワウソなどを始めとしたカワウソの動物園等での域外保全と、本来生息する自然環境下での域内保全を中心に発表され、議論された。今回のIOCには研究者のみならず、各国の動物園関係者の参加も多く、彼らによる積極的な質問が飛び交った。特にほとんど研究の進んでいない種であるスマトラカワウソの現状と保全活動について報告したマレーシアのウー氏の発表では、センサーカメラに映ったスマトラカワウソの特異的な排泄行動の様子が動画として流れ、多くの参加者の関心を集めていた。ウー氏はこの発表で、今大会の最後にベストユースオーラルプレゼンテーション賞を受賞されたほど、これまで非常に情報の少なかったスマトラカワウソの調査が進むことが想像される印象的な発表だった。
またこの日のポスター発表では村尾(東農大修士)によってマレーシアのペラ州におけるカワウソの食性と水田利用の農家との軋轢の特定について発表がされた。ポスター発表は主に30歳以下の学生が中心となって午前午後の口頭発表の合間に行われた。ポスター発表においては、本大会全体を通しても村尾のような糞DNAによる食性解析を始めとしたDNAに着目した研究が少ないように感じられた。
二日目の午前のセッション「新たな脅威と貿易」ではロードキルや漁業関係者による駆除を目的とした密猟、水質汚染によるカワウソへの影響などが報告され、人間活動との軋轢が浮き彫りとなった。また、カワウソをターゲットとしたペット目的の密猟の現状も報告され、モニタリングの重要性を裏付けるものとなった。午後のセッション「対立と共存」ではエコツーリズムがオオカワウソの人馴れ(habituation)を加速させている現状や、都市に生息するカワウソと人との間に起こる衝突などの問題が報告された。さらに市民や漁業関係者に対するワークショップや公共政策など社会学的アプローチの有効性と重要性についても発表された。
またこの日の夜にはユースサークルも開催された。ユースサークルは経験豊富な研究者がメンターとなり、30歳以下の若手研究者と学生がそれぞれローテーションしながら5つほどのグループを作って懇談会を行うものだった。参加者のほとんどが各国の大学院生であったため、話題はもっぱら研究をどう継続させていくかとなり、多くの学生が卒業と同時に研究を止め、就職していく現状について議論されていた。私自身英語が不得手であり、まだ研究を行っていないこともあって、議論を十分に追うことが難しかったが、多くの大学院生が研究を継続させたいと考えていても経済的な理由や研究者になることのハードルの高さから断念している現状を知ることが出来た。このユースサークルでは必然的にメンターが話の中心となったため、ユース同士の交流はあまりなかったことが残念だった。しかし、メキシコ人の学部生のひとりと仲良くなり、大会の最後まで交流をしたことは印象に残っている。
三日目の午前のセッション「カワウソのモニタリングと研究のための高度な技術」では継続したロードキル死体の収集による研究成果の報告や、機械学習を用いた足跡識別技術の開発などコンピューターサイエンスによる研究事例などが報告された。佐々木理事長(筑女大)もマレーシアでのGIS(地理情報システム)を用いたスマトラカワウソの生息適地推定に関する研究の途中経過についてと、DNA研究によって明らかになったマレーシアにおけるコツメカワウソとビロードカワウソの交雑種の拡大について、それぞれ報告された。
午後は口頭発表が無く、環境DNAワークショップと剖検ワークショップがそれぞれ開催された。同時開催だったため、私たちは環境DNAワークショップに参加した。ワークショップはシモーネ氏による環境DNAの概要についての講義から始まり、水の特徴、軟水か硬水かによってDNAの劣化速度が変化するなど実際に環境DNAを用いた研究を行うことを想定した実践的な内容が話された。最後には実際にDNA採取に使うろ過装置での実演が行われ、多くの学生の興味を引いていた。特に、今回参加しているリマの学生の多くはカワウソを専門としておらず、クジラや甲殻類、魚類などの海洋生物を専攻しているため、カワウソについての発表より、彼らの分野に関わる今回のワークショップに興味を示していたように感じた。
四日目の午前のセッション「レッドリストとグリーンステータス評価」では従来の絶滅リスクを表すIUCNによるレッドリストを補完する存在として、回復レベルや保全活動の評価をするグリーンステータスについての発表がされた。事例報告としてグリーンステータスによる評価が完了しているラッコを事例に絶滅リスクの評価だけでなく保全の成功と将来の回復可能性を定量的に評価する必要があることが語られた。午後のセッション「教育、コミュニケーションとネットワーク」ではカワウソの水生環境における生物指標としての潜在的価値に対し、市民の関心と認識のギャップが生態学的調査と社会学的調査の両方から報告された。またカワウソのロードキル死体や観察記録といったデータ収集において、スマホの普及による市民科学の貢献の可能性が挙げられ、データ共有のコミュニティネットワークの必要性が報告された。
四日目夜には社交ディナー(ソーシャルディナー)がリマ市内のレストランで行われた。音楽とダンスの華やかなものだったが、常にショーが行われており、席も固定されていたため、参加者同士の交流はあまり行われなかった。ここはショーを見る分には楽しかったものの、社交の場としてはあまりよくなかったのが残念なところで「ソーシャルディナーじゃない!」とチェアマンのニコルも含めて早々と宿に戻る参加者もいた。
最終日はチェアマンを退任するニコルへの送辞がトムから行われ、その後ニコルによる答辞でこれまでのカワウソ保全についてとIUCNの取り組みについて話された後、今後50年で取り組まれることについて発表された。特にスマトラカワウソの個体数については連携していきたいとし、スマトラカワウソの種コーディネーターであった佐々木理事長の名前も出された。また、退任したニコルにかわってブラジルのカロリーナ氏が着任することが発表された。今後はOSGが共同チェアマンのアンナ博士(イタリア人)とカロリーナ博士(ブラジル人)の新体制で運営される。
最後に次回のIOCの開催について発表され、本大会の代表らの言葉によって締めくくられた。次回はカナダで行われる予定であるとのことである。

集合写真

佐々木講演

ポスター発表の様子

交流パーティ

サイレントオークション 協会の絵葉書セットも提供

毎晩飲み会がある

街から会場へバスが毎朝出る

会議の合間にあるエクスカーションではウミカワウソを観察できた(頂いた写真)
