緊急シンポジウムを実施しました

目次

概要

日程

2019年11月3日 13:00-15:30

開催場所

東京大学、東京

内容

  • Part 1. AOCSJ代表挨拶
    協会発足とシンポジウム開催の趣旨について
  • Part 2. 報告
    1. カワウソにかかる新たな種の保存法の規制内容について
      佐藤大樹氏(環境省野生生物課)
    2. 日本におけるカワウソ取引の現状と管理体制
      北出智美氏(TRAFFIC JAPAN)
    3. 改正動物愛護法施行へ向けた動きと展示動物
      東さちこ氏(PEACE)
    4. 日動水におけるコツメカワウソの管理手法とその現状
      伊藤咲良氏(よこはま動物園ズーラシア)
  • Part 3. 報告者全員によるパネルディスカッション

実施報告

2019年10月1日、日本におけるカワウソ保全活動をより推進するため、日本の研究者たちにより日本アジアカワウソ保全協会(Asian Otter Conservation Society of Japan, AOCSJ)が設立されました。

我々が取り組む課題の中で、ペットとして飼育されるコツメカワウソに関わる問題は最も深刻なものの一つであり、8月のCITES(ワシントン条約)付属書ランクの変更により、種の保存法に基づき11月26日より飼育個体に対する規制制度が開始します。 そのため、本協会はこの新たな規制制度について多方面から議論を行い、そして一般にも広くこの現状について啓蒙を行うため11月3日に緊急のシンポジウムを開催いたしました。 当日は複数メディア記者の方々を含む55名の方々に参加いただきました。

カワウソにかかる新たな種の保存法の規制内容について
– 佐藤大樹氏(環境省野生生物課)

まず、環境省の佐藤氏からは今回のメインテーマであるカワウソに新たにかかる種の保存法の規制内容について詳しく紹介いただきました。

この国内法改正の根拠となる国際条約、CITESの概要をふまえた上で、今後コツメカワウソ、ビロードカワウソの生体にどのような規制がかかるのか詳しい説明がありました。 重要な点としては、個体の売買だけでなく、貸す・借りる・あげる・もらうという行為全てが規制対象となるため、ペットショップに預けるなどにも個体の事前登録が必要となり、販売・頒布目的の陳列や広告も規制されることになります。 ただし、単純所持(飼育)は規制対象行為ではないことから、規制前から飼育しており誰とも受け渡し等の行為がない場合、全く登録は必要にならないという点には留意せねばいけません。

また登録に必要な事項についても説明があり、個体のマイクロチップ挿入が必須である他、登録後の有効期間は5年間、有効期限ごとに更新を受ける必要があります。そのため、今後カワウソを国内で売買する際には、その個体の登録番号・登録年月日・登録有効期間の満了日を示して広告する必要があります。そして最後に、これら規制に違反した場合の罰則についても紹介がありました。

日本におけるカワウソ取引の現状と管理体制
– 北出智美氏(TRAFFIC JAPAN)

次に、TRAFFIC JAPANより北出氏から日本のカワウソ取引の現状と管理体制について発表いただきました。

まず日本の密輸現状として、2016-2018年の間におきた密輸事件でのべ47頭のカワウソが押収されており、日本人逮捕者は6名に登ります。 そのため2018年10月に発表された緊急レポートから、商業目的としては9割がコツメカワウソを対象としていること、2016-2017年の2年間でも25頭が輸入されており、同時期は動物園・水族館でも人気の高まりからか19頭が輸入されていることが明らかとなりました。

そしてそのネットを中心とする販売形態や一頭80-162万と高額で取引される実態が判明し、カワウソカフェの増加や動物園・水族館出身の個体が業者を介して販売された件も指摘されました。

またこのようなカワウソブームとも呼べる過剰な人気を引き起こした経緯として、SNSが大きな要因であるといえます。 さらに最後に種の保存法によって開始される規制の課題についても挙げられ、最も焦点となる登録審査の精密性については、規制前に密輸された個体が正規個体として登録されたり、今後密輸個体が既存個体の親子などと偽って登録されないように、その登録条件としてDNA親子鑑定などの科学的な証明を求めるなど審査の厳格化を求めるものです。

そのため、TRAFFICからの提言をまとめると、現法律の施工にあたっては登録の厳格化と周知、そして長期的には合法に取得された個体だけが登録の対象となるような明確な規定に変更することが望ましいとの内容でした。

改正動物愛護法施行へ向けた動きと展示動物
– 東さちこ氏(PEACE)

そして、PEACEの東氏からは、改正動物愛護法施工へ向けた動きと展示動物についての説明がありました。

まずはペットショップで不適切な環境で飼育されているコツメカワウソの例がいくつか紹介されました。 このような劣悪な環境でカワウソが飼育されている場合、行政は動物愛護法によって改善を指導することができ、この法律は2019年の6月に4回目の改正が成立し、今施行を待っている段階です。 そして動物愛護法は前述の種の保存法と関係あることが明記されており、今後の改正以降は違反した業者は5年間営業停止となります。

さらに第一種動物取扱業の登録基準も厳しくなりますが、犬猫以外の動物にはどこまで厳しくできるかが焦点となります。 また動物愛護法の改正時に付帯決議があり、野生動物の飼養については限定的で飼育管理基準のあり方について検討し、措置を講ずるというものです。

違法取引自体が動物福祉の観点から著しく反する方法で行われていることから、今後野生動物のペット飼育を誘発するカフェ・ふれあい等が実質できないくらい厳しい規制を実現することが望ましいとの内容でした。

日動水におけるコツメカワウソの管理手法とその現状
– 伊藤咲良氏(よこはま動物園ズーラシア)

最後に、日本における動物園・水族館の飼育実態として、日動水(JAZA)でのコツメカワウソ管理と現状についてよこはま動物園ズーラシアの伊藤氏から発表いただきました。

まずJAZAで飼育されているカワウソ類のうちコツメカワウソは管理種であり、その管理種では血統登録、計画管理に加えガイドライン作成や飼育指導、調査研究も行うとのことでした。

そして、CITES付属書Iに指定された種が国内移動する際のプロセスに加え、JAZA全体で飼育する園館数と個体数の紹介があり、現在は約50施設で250頭を飼育していることが明らかとなりました。 またそのうち85%が国内繁殖個体となります。

今後、JAZAでは遺伝的多様性を維持した個体群の形成、不明な生理生態解明に向けた調査研究および東南アジア域の園館との協力体制構築が望まれるとの内容でした。

報告者全員によるパネルディスカッション

最後に総括および議論の活発化のため行われたパネルディスカッションでは、参加者からの質問を基に講演者からの詳細な説明がありました。

この中で挙げられた内容として、まずカワウソの譲渡ではJAZAなどのくくりは関係なく大臣の許可が必要となること、東氏の発表にあった付帯決議については、法的効力はないため必ずしもこの内容が取り入れられるとの保証はないとの説明がありました。

その他、DNA親子鑑定には具体的に何を用いることができるのかという質問については当協会理事の和久氏から説明があり、血液や毛根などが使用可能との回答を示しました。

今回はメインテーマが非常に専門的な内容でありましたが、各発表がある程度異なる観点からのものであったため、より広い視野で今回の法規制改正について話し合うことができたと感じております。

今回のシンポジウムがコツメカワウソ問題改善に向け影響を与えることを望むと共にこれからも保全活動に邁進して参ります。

シェアで応援お願いします!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

WWFジャパン野生生物グループ、IUCN(国際自然保護連合)カワウソ専門家グループメンバー、日本アジアカワウソ保全協会顧問。 ソウル大学修士課程修了後、東京都恩賜上野動物園勤務を経て、現職。 現在は海外勤務の傍ら論文博士テーマとして東京農工大学・ソウル大学と共同で東アジアのユーラシアカワウソ腸内細菌研究を行うほか、深刻さを増すコツメカワウソのペット問題についても取り組む。

目次